時計台本番だよ 2008年6月14日公開
6月12日(木)17時20分搬入許可、開始。 18時30分開場までに舞台設営を全て終えるんだ。
自分で作ってきた演台を組み立て、赤毛氈(ひもうせん)を回す。 後幕を垂らす。
スタッフ一同(いつも手伝ってくださる心良き方々)、ほうぼう走り回り、
それでも手が、時間が足りない。
「音響はどうした~~!!」
アッと言う間に開場時間だ。
チケット150枚はすでに完売。
当日券が足らない。 窓の外、お客でいっぱい。
ウワーー!
「開場しま~す!」の声で、ドドッと皆さん二階会場へ
と上がってくる。 あと30分。 こそっとトイレへ。
すぐにメイク、着物を着始める。
その間、簡単な仕切りの楽屋へお客様が次々と顔を見せてくれる。
「どうもお忙しい中ありがとうございます。」 「がんばってください。 楽しみにして来ました。」
刻一刻と開演時間が迫る───。 「五分前です!」 とりあえず準備完了。
一人になる。 言い知れぬ不安が全身を襲う。 胃のあたりがギューッとしてくる結構会場内暑く、汗がふき出てくる。
「アレッ、最初の科白が出てこない。 何だったっけ。」
「アレッ、え~と ・・ アッ! そうだそうだ」 かなりの緊張 ・・・。
「ふ────── ッ」 深呼吸。
ここまできたら今までの稽古を、自分を信じて舞台に臨むしか他ない。
─ ナムアミダブツ ─── 覚悟ッ。
出囃子鳴る ・・・・・
大きな拍手に迎えられ、会場を突き進み、高座に登る。 正面見据えて一礼。 拍手止む。
満員の客に圧倒される。
「ここは札幌、通も多いはず … 」
そう思うと体がすくむ。 すでに負けてる。
頭の中を様々な思いが駆け巡る。
枕もそこそこに、一席目「ちりとてちん」の開始だ。
案の定、すぐにトチる。 どうにもならない。
未熟さを思い知る。
稽古の量だけでは補えない ” 足らないモノ ” を痛感する。
しかし、ここで引き下がる訳にはゆかないのだ! 今の自分をそのまま出す、 ” それしかない ”気を取り直し、お客とゆっくり対峙してゆく …… 一進一退。 札幌は手強い。 まだ早かったか。
いやいややるしかないのだ ───!
少しずつ笑いも起きる。 有難いもので少数のよく笑ってくださるお客様につられて、
場内少しずつほぐれてゆく。 もちろん自分も ・・・・大発奮、大発汗の末に、笑いと拍手で一席目を何とか終える。
それにしても場内暑い。 (外はそれほどでもないのに・・・)
たくさんの扇子が動いていたし、途中で暑さのあまりお帰りに (おもしろくなかったのかもしれないが・・・)
なったお客様もいた。
アンケートにも 「暑くてかなわん。 次回もここなら、もう来ない!」 と書かれたお客様も居た程なのだ。
二席目は 「外郎売り」 ・・・・・
自作の一席。 かつて小沢昭一さんの芸能座研究生と成った時代に、
科白(セリフ)の勉強で劇作家の、ふじたあさや氏から習ったモノ。
演劇人やらアナウンサーたちなら誰でも知っている有名な教材なのだ。
語り芸を一昨年始めた時、これを30年ぶりに引っ張り出して、口慣らしによく練習していたのを、
ある機会に余興的に演ってみると、これが評判がいい。
それじゃというので、その科白を題材に調べを進めて、一席に仕立てたものなのだ。
江戸時代の歌舞伎役者・初代市川団十郎そして、二代目に渡る芸道の話と相成った。
どちらかというと講談調で、かなり稽古を積んできた一席なのだが、果たして ・・・ 。
二席目開始。 枕に自社のピーアールと一緒にお客様全員に ”こんぶ塩” を差し上げて、
一気に和気あいあい。
いい風が吹いてきたぞ。 ここだ! 噺スタート。
好調の出足。 いいぞ~~。
中盤から終盤へ、 そして最後の締めに
「では、その外郎売りの科白とはいかに !」
そこから約8分間に渡る長科白の始まりだ。
一気に駆け抜ける。 途中自然と会場から拍手が沸き起こった。
来たぞ~~。 さらにたたみかける、ラストスパート。
バンバン!! 終わって満場の拍手を頂戴した。
やったぞ! 嬉しかった。
全身汗みどろ。 すぐに出口へと走り、お客様を一人一人お見送り。
口々に (お世辞ももちろん) 良かったと言って下さった。
─── 全てが終わった。
スタッフ、 ” よかった ” と言ってくれる。 しかし、安堵感と一緒に反省もしきり ・・・。
高い着物二枚、汗でベチャベチャ ・・・ でも、嬉しい。
ススキノで打ち上げ ・・・・・
気心の知れた人々と、会を作り終えて飲む酒の何と美味い事か。
この酒を飲むために稽古を積んで来た様なものだ。
時計台場内の暑さと、大量の発汗でビールがどんどん進む。 ”痛風”の自分を完全に忘れてる。
とにかく美味い! 嬉しい! 有難い!! ホテルに戻ったのは当然真夜中だった ・・・ 。
ふり返って ・・・・・
札幌の舞台は、正直今の自分では、特に ” 落語 ” では向かえない。
その完全なる力不足、経験不足を感じたのでした。
たとえアマチュアでも、演じた評価はプロと対等でなければならない、とバカみたいに思っているので
(勝手ながら) その意味では、今回は不合格 ・・・。
果たして ” 落語 ” というモノの奥深さと難しさを改めて知った次第です。
さて、この完全なる経験不足、素人の自分が、来年の舞台に向けて何をどう準備し鍛えてゆくのか、
それが、問題だ ─── 。
え? 来年も演るのかって? お許しくださいお客様 ・・・ 。
元気に生きてりゃ又、大恥を掻きに参りますヨ。 どうぞ皆様、寛大なるお心で、
この田舎者の悪あがきをご容赦願います ─── 。
追伸 ・・・・・
ちなみに私、 時計台のステージに上がるのはほぼ10年ぶり
(1999年11月に弾き語りソロコンサートを行っている)。
果たして、少しは成長しているのでしょうか ・・・ 甚だ疑問。
だってこの歳で、誰に頼まれた訳でもないのに、まだこんな事してるんですから ・・・!?
しかしね、人生(旅)の恥は掻き捨て ── なんて言いますからね。 ウハハハ! 人生全てこれから♪